Research and Developmentグラフェンと私たちの技術
ナノカーボンとしてのグラフェン
ナノカーボンと呼ばれる物質の代表格は、フラーレン、カーボンナノチューブ、それとグラフェンの3種類です。フラーレンは1985年、カーボンナノチューブは1991年にそれぞれ発見され、当時はこの「発見」そのものがセンセーショナルなニュースとして伝えられました。一方、グラフェンはグラファイト(黒鉛)の構成物質として古くから知られていましたが、2004年にグラファイトから単離できることが示された結果、産業応用への期待が一気に高まった経緯があります。
グラフェンが注目されるひとつの理由として、その原料であるグラファイトが天産物として豊富に入手できることが挙げられます。この点は、合成的な手法に頼らなければならないフラーレンやカーボンナノチューブと大きく異なる点です。しかし、潤沢な原料を元にしたとしても、そこからグラフェンが効率よく得られなければ、産業応用に供することは容易ではありません。
グラフェンの量産技術
グラファイトを剥離してグラフェンを得るには大きく分けて2つの方法があります。ひとつは物理的な手法で、グラファイトをビーズミルやボールミル、あるいは高圧乳化機のような装置を用いて、機械的せん断力で剥離する方法です。その他にも電界剥離のような静電力を利用した剥離法もあります。しかし、これらの物理的手法では、単層はおろか、数層レベルのグラフェンでさえ量産することが難しいのが現状です。
これに対して、グラファイトに強い酸化剤を作用させて、グラファイトの層間を剥離させる化学的な手法がグラフェンの量産に適していることが広く知られています。たとえば、改良ハマーズ法は単層グラフェンを製造する標準的な方法となっています。物理的手法と較べると、副資材(化学薬品)や特殊な反応プロセスは必要となりますが、プロセスの合理化によって、コスト低減はもはや本質的課題ではなくなりつつあります。
グラフェンのハンドリング技術
単層のグラフェンに注目すると、一般のナノ材料と同様にハンドリング上の問題に遭遇します。単層のグラフェンが集まると、層間の再スタック(再積層)によってグラフェン固有の特性を引き出せなくなるからです。再スタックの抑制には界面活性物質の添加が有効ですが、金属ナノ粒子の場合と同様に、大量の界面活性剤はグラフェンの特性を損ねてしまいます。
そこで、マテリアルイノベーションつくばでは、剥離したグラフェンが再スタックしないよう、層間のスペーサーとしてカーボンナノチューブを用いる方法を発明し、グラフェンとカーボンナノチューブとから成る新規の複合材料を開発しました(グラフェン/CNT複合材料)。ドライアップした粉体の状態でも、単層グラフェンの状態が維持されるので、そのまま粉体として、あるいはスラリー化して必要部分に塗布するだけで、グラフェンの特性を引き出すことができます。
グラフェンファミリーとその用途
マテリアルイノベーションつくばのグラフェンファミリーには3種類があります。1つ目は酸化グラフェン(GO)で水性溶媒への良好な分散性が特徴となっています。2つ目は層数の少ないグラフェンで、センサー、触媒等の様々な用途に使うことができます。そして3つ目がグラフェン/CNT複合材料です。前述のように、この材料はグラフェン構造が高度に維持されており、電池やキャパシタ用の電極材として特に好適です。
注目を集める電池用新規材料
マテリアルイノベーションつくばでは、このグラフェン/CNTを電極材としたグラフェンスーパーキャパシタを開発しました。高電圧・高容量・高エネルギー密度で、数秒で高速充電でき、高い耐久性と安全性を備えています。ウェアラブル機器、環境発電用蓄電池、作業支援ロボット等、広範な活用に向け、今後サンプル提供を本格化してまいります。